ルート66

現代に生きる歴史街道

ルート66はアメリカ中西部、イリノイ州シカゴからスタートしアメリカ西海岸カリフォルニア州サンタモニカを結ぶ全長2347マイル(3755km)の旧国道。1926年に建設され1985年に廃線となりその後はナショナルシニック・バイウェイ(National Scenic Byway)に指定された。
初期には産業道路として大型トラックの物流を担い、1930年代にはカンザス、オクラホマからカリフォルニアへ向かう移住者で溢れ返った。ジョン・スタインベックは「怒りの葡萄」で、土地を求めルート66を西へ西へと進む貧しい農民の姿を描き1940年にピューリッツアを受賞、この小説はルート66をますます有名にした。
ルート66は1938年にアメリカで初めての舗装道路となった。アリゾナの国立公園やカリフォルニアへのレジャーに活用されるようになったのは乗用車が普及し出した1950年代以降である。
ふたりの若者が車で大平原を旅する連続テレビドラマ「ルート66」は大ヒットを記録した。いつしかシボレーコルベットとGMキャディラックはルート66のイメージと重なり合い、20世紀中頃のアメリカ人の上昇意欲を刺激した。1960年代に青春時代を過ごしたアメリカ人なら誰しも引退後にはコルベットかキャディラックでルート66を優雅に旅したいと願うという。
事実ルート66を走ってみると出会うのは殆どが中高年夫婦である。沿道の寂れた景色や旧式のガソリンスタンドが懐かしくかえってよい。人生それぞれにドラマがある。ルート66はアメリカの古き良き時代を象徴する道路なのである。
バクダットカフェ(写真8)は映画「バクダットカフェ」の舞台となったところ。アリゾナからカリフォルニア州に入って120マイルほど。荒涼としたモハベ砂漠(Mojave Desert)の真ん中にあるポツンと1軒屋カフェだ。映画は1989年公開、監督はパーシー・アドロン。海外からの旅行者夫婦がうらぶれたカフェに集う変わり者揃いの人々と繰り広げる不思議な人生ドラマ。ルート66にはドラマが似合うのである。

マウントシャスタ

気力漲る本物のパワースポット

マウントシャスタはアメリカ西海岸、カリフォルニア州中北部シャスタトリニティ森林公園(Shasta Trinity National Forest)の北側に聳える4312mの高峰。面積8946平方km(3457平方マイル)に渡る広大な森林公園には多くの河川や湖が点在する。
当地には今から1万年前頃から先住民インディアンが住みマウントシャスタは古来より霊峰として信仰されてきた。19世紀にはシャスタ族、ニューリバーシャスタ族はじめ4部族が居住し人口は6000人前後だったという。
しかし1848年にカリフォルニアの金脈発見が契機となりゴールドラッシュが到来。カリフォルニアを目指す数万人のヨーロッパ人大移動はインディアンの領土を武力で侵略しインディアンは徐々に衰退した。
シャスタが先史時代から信仰の土地であったことを当時の入植者が知ることはなかった。しかし19世紀末以降シャスタにまつわる伝説が次第に明らかになり、また地場エネルギーの研究など土地の力の存在が知られるようになってきた。
その頃、西海岸で著名となった自然主義者で地質学者でもあったジョン・ミューア(John Muir、1838-1914)の影響力も大きい。ミューアは人間と大自然との共生、土地固有の信仰の尊重を訴えた。
パワースポットといわれる土地には大地震や噴火がつきものだ。マウントシャスタもその例にもれずきわめて危険な火山のひとつで、ひとたび爆発が起きれば1980年のワシントン州セントへレンズ大噴火を凌ぐ脅威になるといわれている。マウントシャスタの一番最近の大噴火が1786年。爆発周期が600年に一度といわれているので今世紀はひとまず大丈夫ではないだろうか。
僕たち夫婦はSiskiyou 湖畔、森の中に建つマウントシャスタリゾート(Mount Shasta Resort)に滞在した。キッチン、リビングルームを併設した広いスペースの木造ビラだ。澄み渡る空気で気分は爽快。土地のパワーも存分に吸収して満足の数日間だった。

クレオール・ネイチャートレイル

ワニ横断注意の自然道

クレオール・ネイチャートレイルはアメリカ南東部、ルイジアナ州南西部にあり全長180マイル(288km)。このトレイルの起点となるレイクチャールズはアメリカ東西を結ぶインターステイツ10号線上にあり大自然とはいうものの交通アクセスはきわめてよい。
ルイジアナ州道14号、82号、27号、384号がネイチャートレイルの対象となっているが1本の道に繋がっている訳ではなく、車で走っていて時々道に迷いそうになる。周辺は小川や湿原、湖が入り混じるウェットランドで自然感満載。巨大なアメリカアリゲーターをはじめ野生動物の宝庫となっている。
クレオール・ネイチャートレイルは2002年にオールアメリカンロードに指定された。1989年にシニックバイウェイ法が成立し、考古学、文化、歴史、自然、レクレーション、景観の6項目を審議し120の道路が「ナショナルシニック・バイウェイ」に、30か所が最高峰の「オールアメリカンロード」に認定されている。
オールアメリカンロードのすべてを走行したわけではないが、好きな道はと聞かれれば、まずフロリダキーズ・オーバーシーズ・ハイウェイ(Florida Keys Overseas Highway)。マイアミから最南端キーウエストまで島伝いに海上を一直線に突っ走る、その爽快感は言葉にはできない。
次いで大河ミシシッピに沿って走る全長2069マイル(3329km)のグレート・リバーロード(Great River Road)。ミシシッピ川は氷河湖イカタスを源流とし10州を南下してニューオーリンズ湾に注ぐ。三番目はルート66(Route 66)。シカゴからサンタモニカを結ぶ全長2347マイル(3755km)の旧国道。古き良き時代を象徴する歴史街道だ。
こう考えてみるとアメリカの旅の魅力は「点」ではなく「線」、町と町をつなぐその線上に面白みがあると思う。もうひとつは「面」だろうか。例えば国立公園などにじっくり滞在し広大なエリアをぐるぐると巡るのもたいへん楽しい。

グレート・リバーロード


アメリカ縦断、大河ミシシッピの旅

グレート・リバーロードは蒸気船が往来した19世紀のミシシッピ河川交易を象徴する道路。全長2069マイル(3329km)でミシシッピ川に沿ってアメリカを南北に縦断する。
ミシシッピ川は開拓時代における農産物、綿花や砂糖など重要な河川交易のルートとなっていた。そのミシシッピに並走する道路がグレート・リバーロードでありアメリカを東西に繋いだルート66と共にアメリカの経済発展を彩った歴史街道となっている。
僕たち夫婦は同じ年の夏と冬の2回に分けてこの道を走行した。もちろん夏に北部、冬に南部。南北に移動する縦の旅は日ごとに気候が変化し植物相の移り変わりも大きくメリハリがある。
ミシシッピ川はミネソタ州北部にある氷河湖イタカスを源流とし、南下してウィスコンシン、アイオワ、イリノイ、ケンタッキー、テネシー、アーカンソー、ミズーリ、ミシシッピ、ルイジアナの10州を経てニューオーリンズ港があるメキシコ湾に注ぐ。
ミシシッピの語源は先住民オジブワ族の言葉で「大きな川」。アマゾン、ナイルと並ぶ世界三大河川のひとつで総延長は3731マイル(5971km)。直線に換算すると北海道から沖縄の倍の距離という途方もない長さなのである。流域には紀元前から多部族の先住民が住んだが、17世紀中ごろからフランス人による入植がはじまりフランス領となった。
1803年にアメリカはミシシッピ川以西のルイジアナをフランスから購入。2500万ドルという世紀の大買収によりミシシッピ川の東西流域はアメリカ支配下となった。蒸気船での航行は1811年から始まり、南北戦争が勃発した1860年代に最盛期を迎え、その後鉄道の登場に伴い急速に衰退する。
ウインスコンシン州ラクロス(La Crosse)は川に面した静かな町(写真4)。河口から北に1500マイル(2400km)も遡った内陸にありながら川幅は何と5000m。川岸からの眺めはまさに大海原。アメリカのスケールを見せつけられた思いである。