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グランドキャニオンがある北アリゾナはかつて海の底だった。数百万年前の地殻変動により標高8千メートルまで隆起し、ひび割れた大地に氷河期の水量ゆたかなコロラド川が流れ込み現在の大峡谷の絶景が出来あがった。キャニオンの深さは1600メートル。くっきりと色分けされた重なりは先カンブリア時代から始まり過去20億年間の地層を岩壁の下から順に見ることができる。地層1センチは約1万年分に相当する。

何と恐竜がいた中生代白亜紀は思っていたより現代に近く頂上から50メートル下にある地層なのだ。グランドキャニオンの峡谷はこの先さらに浸食が進み、削られた台地は数百万年後にはセドナのようなロックマウンテンの姿となる。さらに数百万年経つと岩山はさらにやせ細り点々と散在するモニュメントバレーの残丘に変わり、いずれ大平原になるという。アメリカの大自然はまさに地球創生の歴史博物館なのである。

アメリカの田舎町もとても魅力的だ。大自然に人が分け入り集落ができ、人と自然の共存がはじまる。人は自然とどう対峙してきたのか。過疎の地が少しずつ人里に変わるさまを各地で見ることができる。先住民が残した文化も見逃せない。僕が好きな大自然、訪れた田舎町には必ずかつてそこに暮らした先住民の足跡があった。インディアンの歴史を辿ることは現代のアメリカを考える重要な手掛かりとなる。

インディアンは今から1万年以上前の厳寒期にアジアを出発して氷河棚に覆われたベーリング海峡を渡りアラスカを経てアメリカ大陸に到達した。彼らは山、湖、川に精霊を見出し、大地の教示に従いながら広いアメリカのなかで自分たちに合った場所を見つけ暮らしてきた。セドナやマウントシャスタなど彼らが聖地として崇めてきた土地とパワースポットとして現在脚光を浴びている観光地がことごとく合致しても何ら不思議はない。

博物学者の荒俣宏はパワースポットを「大地の力がみなぎる場所」と定義している。アメリカではボルテックスといわれ地中から天空に向け渦巻き状の強い磁力が発する場所と解釈されている。そこにいるだけで気力が増すという土地は経験上たしかに存在する。土地の勢い、土地の吉凶を占う世界観は中国の風水思想をはじめインド、ヨーロッパにも古来あったが、インディアンほど強く土地への崇拝に固執した民族はほかにはないだろう。

付け加えるにアメリカの国立公園法は素晴らしい。公園のビジターセンターでは地理や歴史に関する詳細な情報を得ることができる。公園内には煩わしい商業看板はひとつもなく、道路標識やガードレールの素材や色彩にも規律があり自然との調和が保たれている。公園ではレンジャーの献身的な活動を目にしてきた。国立公園局には2万人に及ぶ政府職員が働いている。優れた法律があるからこそ自然が守られているのだ。

最初の10年はアリゾナの雄大な自然とインディアン文化に夢中になり頻繁に行き来した。その後ニューメキシコやコロラド、そしてアメリカ全土へとどんどん興味が広がり、年月とともに膨大な写真を見返しても思い出せないことも多くなり、ともかく少しでも記憶にとどめておくためにもウェブサイトをつくることにした。この記録がこれからアメリカを旅し何かを学ぼうとしている若い人たちにとって役立てばうれしく思う。




官浪辰夫 ポートレイト
Far View Lodge, Mesa Verde National Park, Colorado

官浪辰夫(かんなみ・たつお)

1952年大阪府生まれ。海外を頻繁に行き来する仕事に携わり、その合間を縫ってアメリカの田舎めざして転々と旅行、毎年夏と冬に数週間、多いときは年に5、6回、足かけ30数年で数百か所を訪ね歩いた。アリゾナの砂漠で車が故障したりミシシッピでは竜巻に出くわしたり、命カラガラの目にも遭ったが、それでもアメリカには筆舌に尽くしがたいほど貴重な体験をさせてもらった。仕事の関係で行くのはどちらかというとヨーロッパの方が多いが、やはりアメリカが一番面白い。
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